システム思考の基礎

思考法

日々の生活において、あらゆる事象はシステムによるものと捉えることができます。現実の世界をシステムとして捉え、事象の原因は何かと考える、改善を試みる、今後の予測をする、それが「システム思考」です。

日々、顕在化する問題はシステムに原因を認めることができます。どのようにすれば問題を解決できるのか、システムに原因があるとするとそのシステム自体に働きかける必要があります。さもなくば、そのシステムの挙動により問題は再生産されるでしょう。

また、自身が身を置く、もしくは管理する組織をより有効に機能するようにするためには、その組織をシステムとして捉え直し、メタの視点でその挙動とそれを生み出す構造を再設計し、改善していくことが効果的です。

システム思考は、還元主義を補完する思考法と見なされます。還元主義とは、複雑な事象をそれを構成する要素に分解して理解することにより説明可能とする、部分の総和を取る考え方です。しかしながら、部分の総和のみでは説明できない複雑な事象が存在します。システム思考は、複雑な事象の背景にはシステムがあり、システムはそれを構成する部分の総和以上の結果をもたらすと考えます。構成要素のみの理解に留まらず、それがどのような目的のもとに、どのような関係性を持っているかを理解することにより、複雑な事象を説明できるとする考え方です。

本稿では、システム思考の基礎となる概念、及び考え方を説明します。日々の生活においてシステム思考を応用し、対症療法ではなく、それを生み出すシステム自体を改善していくための一助になれば幸いです。

システムとは

システムとは、何かを達成するように一貫性を持って組織されている、相互につながっている一連の構成要素です。 つまり、「要素」、「要素間の関係性」、「機能もしくは目的」の存在が、システムに必要な条件となります。

ストックとフロー

ストックとは、時間の経過とともにシステムに蓄積された物質や情報です。フローとは、ストックの流入(インフロー)もしくは流出(アウトフロー)です。システムのダイナミクス(経時的な挙動)は、ストックとフローの集積としてモデル化できます。例えば、貯蓄をストックとして見なすと、インフローは収入、アウトフローは支出になります(図1)。

図1. ストックとフローの概念図

フィードバック・ループ

多くの場合、システムは自身の挙動を自ら生み出します。つまり、外部からの介入が無くても、そのシステムが自身のストックやフローに一連の変化を生じさせます。その自己再起的なダイナミクスの背景にあるのは、フィードバック・ループです。フィードバック・ループとは、特定のストックの量を参照して特定のフローの量を調整するメカニズムです。フィードバックの種類により次の2種類に分けられます。

  • バランス型フィードバック・ループ
    • ストックをある与えられた値に、またはある範囲内に近づける方向にフローを調整するフィードバック。
  • 自己強化型フィードバック・ループ
    • 時間の経過とともにストックを指数関数的に増加、もしくは低下させる方向にフローを調整するフィードバック。

図2は、バランス型フィードバック・ループと自己強化型フィードバック・ループを持つシステムの例です。ストックは人口です。インフローは出生数で、アウトフローは死亡数です(実際はより複雑なシステムになりますが、ここでは単純化しています)。自己強化型フィードバック・ループとして、人口の値が出生率を介してインフローである出生数に対してフィードバックされます。これは、人口が増えれば増えるほど、出生数を増やす方向にインフローを調整し続ける(つまり、ストックである人口を指数関数的に増加させる)メカニズムになっています。一方、バランス型フィードバック・ループとして、人口の値が死亡率を介してアウトフローである死亡数にフィードバックされます。これは、人口が増えれば増えるほど、死亡数を増やす方向にアウトフローを調整し続ける(つまり、ストックである人口を0に近づける方向に減少させる)メカニズムになっています。

図2. バランス型と自己強化型のフィードバック・ループの例

フィードバック・ループの概念を導入することにより、単純な一方向の因果関係のみならず、双方向の因果関係、もしくは再帰的な因果関係をモデリングすることができます。さらに、フィードバック構造が似ているシステムは同じような挙動を生成するため、アナロジー的に挙動を予測することも可能になります。

システムが効果的に機能する条件

レジリエンス

レジリエンスとは、「ある変動のある環境の中でシステムが生き残り、持続する能力がどの程度あるか」です。そのシステムの脅威となる外的影響から、そのシステムのストックやフローを望ましい状態に戻すようなフィードバックループを、冗長性を持って機能していることが重要です。

自己組織化

自己組織化とは、「システムが自らの構造をより複雑にしていく能力」のことです。自己組織化は、不均質性と予測不可能性を生み出します。全く新しい構造、方法論をもたらす可能性があります。自己組織化には、自由と実験、ある程度の無秩序さが必要です。

ヒエラルキー

ヒエラルキーは、「システムが複数のサブシステムに分割され、そのサブシステムはさらに下位の複数のサブシステムから構成されている構造」のことです。

サブシステムの目的が支配的で、システム全体の目的を犠牲にしている時、その結果としての行動は「部分最適化」と呼ばれます。各サブシステムのレジリエンスや自己組織化を阻害するような中央集権です。部分最適化と同じぐらい害があります。

高度に機能的なシステムであるためには、ヒエラルキーは、サブシステムとシステム全体の自由、責任のバランスを取る必要があります。大きなシステムの目標に向かって調整を図れるだけの中央のコントロールが必要になりますし、すべてのサブシステムが繁栄し、機能し、自己組織化できるだけの十分な自立性も必要です。

参考文献

  1. ドネラ・H・メドウズ(著), 枝廣淳子(訳), 世界はシステムで動く いま起きていることの本質をつかむ考え方, 英治出版, 2015
管理者

外資コンサル社員。SaaS導入を経て現在PMO。
修士(工学)保有。情報工学にてAIの生体計測応用を研究。
アカデミアに憧れ(未練)あり。自著論文の被引用数は約90件。
日々の空白に学びを記します。

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